味の押し波、余韻の引き波。チーム若波の酒

“味の押し波、余韻の引き波”をコンセプトに掲げる若波酒造は、昔から甘く優しい飲み口の“オンナ酒”を醸してきた酒蔵だ。現在は蔵を経営する弟と杜氏の姉、そして蔵人が三位一体となり、ブレない酒造りを続けている。そんなチーム若波が醸す『若波』ブランドは、25BYで4造り目。そのバックボーンにあるものとは――。

 

ひと昔前まで、酒造りは女人禁制が当たり前だった。蔵の家に生まれた娘でさえも、蔵の中に立ち入ることは許されないということも――。そんな慣習が長く続いたので、酒造りに携わる蔵人を束ねるリーダー的存在である杜氏を女性が務めるのは、全国的にも珍しいこと。そのため、メディアなどで紹介されるときに“女性杜氏”という部分がフォーカスされがちだ。若波酒造の杜氏、今村友香さんはこう話す。

「大変でしょう?と心配されることもありますけど、嫌な思いをしたことはありません。もちろん蔵の仕事は重労働でしんどいですが、それは男性にとっても同じ。蔵人の理解があれば女性も活躍できる仕事です。女性だからって甘えることはしちゃいけないけど、助けを求めることは多いにしていいと思う。力がないなら道具を使えばいいし、担げなければ運べばいい。わたしもキャスター付きの籠を専用に作ってもらったり、蔵人たちに助けてもらいながら杜氏として酒造りをしています。男性に比べて力では劣りますが、衛生面や道具の整理整頓などは女性のほうが気がまわる分野でもありますからね。酒造りに参加する女性が増えていけば、“女性杜氏”という表現もあまり使われなくなるのかな。そうなっていけばいいなと思ってます」(今村友香)

友香さんが蔵に入ったのは、2002年の4月。大学を卒業するタイミングで父親が体調を崩し、人手が足りないと京都から呼び戻された。女人禁制だった蔵に足を踏み入れたのは、そのときが初めて。目の前に広がった、閉ざされていた風景。「しびれるものがあった」と当時のことを振り返る。それから必死に酒造りを勉強し、2008年に全国酒類鑑評会で金賞をもらったのをキッカケに杜氏を名乗るように。数年後、サラリーマンをしていた弟の嘉一郎さんも蔵に戻ってくる。チーム『若波』の始まりだ。経営を担う嘉一郎さんも酒造りに参加し、杜氏の友香さん、そして蔵人が三位一体となり、22BYから『若波』ブランドが誕生する。コンセプトは、“味の押し波、余韻の引き波”だ。

「どういったお酒を造るのか、全国のお酒の中でどのポジションを目指していくのか、みんなが同じ方向を向くように姉と蔵人を集めて利き酒会を繰り返しました。そうして出来上った『若波』のコンセプトが、“味の押し波、余韻の引き波”なんです。メタリックな甘味ではなく、なめらかで柔らかい、熟れた果実味のあるお酒を目指しています。年間を通して安定したお酒を提供したいので、うちは火入れのお酒がメイン。開栓直後にピークがくるお酒というよりも、少しづつ伸びていくような酒質が自分たちの理想ですね。22BYの1年目はモヤの中を歩いている感じでしたけど、24BYからはモヤが晴れてほぼ理想形が見えている状態で酒造りがスタートできるようになりました」(今村嘉一郎)

 鑑評会の受賞酒や昨今の酒質のトレンドは、カプロン酸系の華やかな香りがするお酒かもしれない。それでも、チーム若波はブレない。

「ブレないのは、チームで同じ方向を向いて酒造りをしているから。進むべき道がわかっていれば、迷うことはありません。面と向かって言うことはないですけど、弟の存在も大きいと思っています。ただ、決して経営者の姉弟だけが脚光を浴びるのではなく、蔵人にも光を当てていきたいと思っています。『若波』のお酒は、女性杜氏のお酒でも姉弟で造るお酒でもなく、チームで造っていることを伝えていきたいです」(今村友香)

 

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若波酒造

福岡県大川市鐘ケ江752