山田錦に囲まれる蔵が醸す、いま注目の酒

福岡県北西部に位置する糸島地区は酒米の最高峰「山田錦」の産地で、生産量は全国3位。この広大な田んぼに囲まれた土地で、背振山脈の山懐に湧く名勝・白糸の滝の伏流水を仕込み水に1855年から酒を醸しているのが白糸酒造だ。次代蔵元が誕生させた糸島産山田錦65%精米の純米酒「田中六五」が、業界に新風を吹き込む。

激動の幕末期、安政2年(1855年)に酒造業をはじめた白糸酒造。

それ以前は醤油業を営んでいたが、

当時から米作りが盛んな土地だったため

初代蔵元が酒造業参入を決意し長崎奉行へ免許を申請したそう。

しかし、初代蔵元は酒造の許可を得た直後に他界。

亡き父の想いを継ぎ、2代目の喜蔵氏が酒造りを本格的にスタートさせる。

創業150周年に立ち上げた銘柄のブランド名を「喜蔵」としたのも、

そんな2代目蔵元へのオマージュだ。

現在、その「喜蔵」と地元酒の「白糸」のほか

蔵の代表ブランドとして日本酒ファンを魅了している銘柄が「田中六五」。

8代目蔵元予定の田中克典さんが、酒造修行を経て蔵に戻った2009年(21BY)に誕生させた純米酒だ。

「東京農大卒業後に広島の醸造試験場へ通って、その後に「東一」の五町田酒造さんで造りを勉強させてもらいました。自分が蔵に戻って酒を醸すなら全量糸島産山田錦の純米酒と決めていたので、そのブランド名を「東一」を醸す師匠へ相談したんです。そうしたら、蔵が田んぼの中にあるんだから苗字の田中でいいんじゃねぇか、と。だけん「田中純米」じゃわかりにくいので、65%精米の「田中六五」にしたんです」

糸島地区は山田錦の生産量全国3位を誇り、福岡の酒造りを支える銘産地。

土壌は兵庫県(生産量1位)のような粘土質ではないが、

山からの吹き下ろしの風が日夜の寒暖差を与える恵まれた自然条件と

歴史ある篤農家の栽培技術によって最高品質の山田錦が栽培されている。

全量糸島産山田錦にこだわる克典さんの想いは、

すなわち糸島唯一の酒蔵である白糸酒造のアイデンティティーだ。

白糸酒造では昔ながらのハネ木搾りという手作業による上槽法を採用。

醪を酒袋に入れて木の槽に積み込み、

支柱となるハネ木に重しの石(なんと総重量1.2トン!)を蔵人たちが吊り上げる。

そしてテコの原理でやさしく圧力をかけ、ゆっくりと絞り出す。

油圧、水圧で押す槽や、ヤブタ式と呼ばれている圧搾機は一切使用しない。

このハネ木搾りで普通酒から大吟醸まで絞るのは、

全国的に見ても白糸酒造だけ。

丸みのある酒質は、この上槽法によるものだ。

150年間続く伝統と技術を現在、そして未来へと受け継ぎ、

糸島の恵まれた風土と地元産山田錦がおりなす味わいを酒に託す克典さん。

初仕込みの21BYはタンク1本だった「田中六五」だが、

22BYはタンク3本、23BYはタンク7本と仕込み量を増やしている。

彼が目指すのは、さらに出荷量を増やして「田中六五」を福岡の定番酒にすることだ。

「福岡には大手の酒蔵がなく、1500~2000石くらいの蔵が大半。そのためか、福岡の日本酒と聞いてもピンとこない人が多いと思うんです。すなわち、福岡を代表する日本酒がないということ。だから僕は「田中六五」を、福岡の一番ではなく定番という位置にもっていきたいんです。おばあちゃんが切り盛りする小さなお店でも飲めて、格式ある割烹や旅館でも使われる酒になりたい。大都市の東京に行って売り込むのではなく、糸島という恵まれた土地をバックボーンに福岡から地方へ発信していきたいんです」

「田中六五」は現在のところ65%精米の純米酒、この1アイテムだけだ。

まだまだ需要に対して生産量が追いつかないため、23BYも即完売となった。

ファン心理で言えば生産量アップはもちろん、

例えば「田中五五」や「田中山廃」といった新作にも勝手な期待を寄せてしまう。

 

「だいぶ先になると思いますけどね。まずは「田中六五」を納得できるところまでもっていきたい。それに手の内を全部見せてしまうと、お客さんに飽きられちゃうし。酒造りはお客さんを女性と思って、意中の女性に好かれるようにあの手この手を尽くさないと(笑)」

 

白糸酒造は既にあの手この手を尽くし、

大吟醸に漬けた梅酒やノンアルコールの甘酒など

日本酒が苦手な女性をも虜にする人気商品を展開している。

市場を冷静に見極めるセンスもまた、白糸酒造の魅力だ。

「田中六五」24BYの搾りを楽しみにしつつ、

福岡県糸島から放つ次なる一手にも注視していきたい。

 

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白糸酒造

福岡県糸島市本1986

http://www.shiraito.com/