【福岡】笑顔がこぼれる、海木の「だしいなり」

 

福岡・天神の繁華街から少し離れた場所に、「海木(かいぼく)」という日本料理店がある。ここの名物が、かつてJALファーストクラスの機内食にも選ばれた究極の稲荷ずし“だしいなり”。黄金色の絹のようなお揚げに含まれた出汁が口の中でジュワっと広がり、思わず笑顔がこぼれる至福の味だ。

究極の稲荷ずし“だしいなり”を提供する海木は、

炭坑街の大牟田で29年前に創業した。

現在は博多に店を移し、ご主人と女将さん、

そして息子・篤志さんの3人で切り盛りしている。

 

“だしいなり”には熊本県南関町で300年以上の歴史を持つ南関揚げを使う。

女将さんの地元である大牟田も南関揚げの産地だが、

実は四国伊予松山地方をルーツに持つ。

一般的なお揚げとは異なり、

スナック菓子のように水分を含まず乾燥しているのが特徴だ。

 

「南関揚げを作るのに肝心なのが、豆腐の水分を3%くらいまで減らすこと。そのため豆腐を3トンとか5トンという重さでプレスしていくんです。そして5ミリずつスライスして油で揚げていくんですけど、水分が均等に抜けていないと気泡ができてしまうんですね。これを油抜きすると穴が空いてしまったり、シワシワになったりで“だしいなり”としては使い物になりません。そのくらい厄介なお揚げなので、大量生産できるものではないんですよ」

 

 貴重な南関揚げ1枚1枚を徹底的に油抜きした後に洗い、秘伝の鰹出汁で炊き込む。

その出汁について「簡単には言えない」とご主人に釘を刺されたが、

四季で舌の感覚が変わってくるので出汁を引くのはレシピではなく経験と感覚なんだそう。

さらに火力調整にも気を使わなければならないため、8時間にも及ぶ行程は終始つきっきりで行う。

こうした手間と時間をかける事で、黄金色に輝く美しい肌目のお揚げが出来上がる。

そして一般的な稲荷ずしは炊いてから出汁を絞るが、

だしいなりはお揚げの繊維に出汁がたっぷり染み込んでいる。

ご主人曰く「寿司屋ができないことをしようというのが、だしいなりの出発点」だったそう。

このモチモチした仕上がりのお揚げで包み込むのは、

南関の農家さんが精米まで面倒を見てくれる専用米だ。

「お揚げと同じ地域で作られたお米が、やっぱり一番マッチするんですよね。精米も吟醸米とまではいきませんが、かなり贅沢に削っています。中に入れる具も最初は穴子を混ぜたりしましたが、いろいろ試した結果、ゴマも何も入れないシンプルな酢飯に行き着きました」(女将さん)

 

 お米を俵型に包み込むご主人の所作の美しさは、繊細な味を引き出す職人の証。

出来上がった“だしいなり”は

ほんのり温かい出汁と粒の揃ったお米が絡み合い、

口の中にジュワっと旨味が広がる。

食感、香り、味わいによる至高のアンサンブルは、

これまでの稲荷ずしの概念を打ち崩す。

また、時間が経ってもその味は劣化しない。

これが海木の「だしいなり」だ。

 

「私はまだまだ完成とは思っていません。南関揚げの油抜きひとつにしても、まだ他のやり方があるんじゃないかって日々模索していますからね」(ご主人)

「この味を確立させるには、まだまだやれることがたくさんある。さらなる進化を目指して、これからも食べた方がニコっと笑顔になる“だしいなり”を提供していきたいと思っています」(篤志さん)

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日本料理 海木

福岡県福岡市中央区渡辺通1-9-3 1丁目ビル1F

tel 092-738-6564