初心を忘れず、飲み飽きない酒を目指す

明治25年の創業当時から、地元の人たちに愛される酒造りを続けてきた松崎酒造店。2011年秋、それまで蔵を守ってきた南部杜氏の跡を継ぎ、次代蔵元・松崎祐行さんが杜氏に着任する。代表銘柄『廣戸川』に新たな魅力を与え、初めて仕込んだ酒は鑑評会で金賞を受賞。奢らず謙虚に、今年も誠実な酒を醸す。

1200年以上の歴史がある岩瀬湯本温泉や秘湯発祥の地と呼ばれる二岐温泉を有する天栄村は、『米・食味分析鑑定コンクール国際大会』総合部門の金賞米を輩出した米どころとしても有名だ。松崎酒造店は、この地で明治25年に創業。地元を流れる釈迦堂川の別名を冠した代表銘柄『廣戸川』を醸している。長年に渡って南部杜氏による昔ながらの酒造りをしていたが、2011年3月に大きな転機が訪れる。東日本大震災から僅か9日後のことだった。

うちは昔から南部杜氏による昔ながらの酒造りを続けてきました。それが震災直後に杜氏が倒れてしまい、杜氏制を廃止せざるを得ない事態に…。震災後の不安が続く大変な時期でもあったんですけど、みんなで話し合って地元蔵人と家族だけで酒を造る道を選択しました」

 

2011年秋、福島県の清酒アカデミーで酒造りを学んで蔵に戻ったばかりの祐行さんが杜氏となり、松崎酒造店は新たな一歩を踏み出す。周囲からは杜氏が変わったことで、どんな酒が出来るのか心配する声もあった。しかし祐行さんは蔵人や家族の協力を得ながら、試行錯誤の毎日だった23BYの仕込みを無我夢中でやり遂げる。そして出来上がった初陣酒は、『平成23酒造年度福島県新酒鑑評会』の吟醸の部と純米の部で金賞、大吟醸は『平成23酒造年度全国新酒鑑評会』でも金賞を受賞。米の持ち味を活かすという蔵の伝統を継承し、謙虚に誠実に酒造りと向き合うことで代表銘柄『廣戸川』に新たな魅力を与えた。

「原料米には福島県が開発した酒造好適米「夢の香り」を使っています。社長には山田錦を使ってもいいと言われたんですけど、1年目の新米杜氏の僕が山田錦を使うなんて恐れ多くて…。それに、まだ経験が浅い自分が複数の酒米を使うのは違うと思ったので、まずは「夢の香り」を極めることにしたんです。あとは味のある酒にこだわったとき、「美山錦」とか軽さが特徴の酒米は自分が求める酒には向かないと思って。「夢の香り」は砕けやすくて使いづらいと言う人もいますが、うちみたいな小さい蔵は大量に米を洗うこともないので、きっちり丁寧に仕込めるんです。そこを強みにすれば、蔵の色にもなるんじゃないかと」

 

初めて祐行さんが仕込んだ23BYの『廣戸川』に下された評価は、本人の想像を遥かに越えるものだった。しかし、彼は一切の奢りを見せない。麹造りなどは「もっとしっかりやれた」と反省する。蔵が目指してきた飲み飽きない酒を醸すため、金賞酒を醸した蔵というプレッシャーを原動力に変え、今日も理想の酒を追い求めている。

「日本酒が好きな方の飲み方って、ひとつの銘柄に絞らず何種類か飲み比べしますよね。で、ひと周りしたときに何を飲むか。そこで手に取ってもらえる酒を醸したいんです。インパクトのある酒も大事ですし、甘くて酸のある酒を造れば売れることもわかってる。でも、それは僕が造りたい理想の酒ではないんですよね。1杯だけ飲んで美味しいと言われる酒よりも、家で4合瓶をゆっくり空けてもらえる酒にこだわりたいんです」

 

 

 

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松崎酒造店

福島県岩瀬郡天栄村大字下松本字要谷47-1