五百万石で醸す喜多方の“純米”「奈良萬」

明治10年創業の夢心酒造は、米どころである喜多方を代表する酒蔵だ。会津盆地の恵みを受けた酒米「五百万石」と福島県が開発した「うつくしま夢酵母」で醸す『奈良萬』ブランドを誕生させたのは、平成10年のこと。各種鑑評会で高く評価され、冷やからお燗まで対応する“困ったときの『奈良萬』”と飲食店からも人気の酒だ。

 商人の街・喜多方に住む人たちから「身近にある旨い酒」と親しまれてきた夢心酒造。昭和59年当時の出荷ピークで年間1万1000石を製造し、そのうち1万石が喜多方市内で消費されていたそう。十一代目の東海林伸夫さんが蔵に戻った18年前もまだ大手酒蔵の参入はなく、「喜多方の人は喜多方の酒を飲む」という地産地消の精神が根付く理想の市場だった。しかし、ディスカウントストアの参入や日本酒市場にとって冬の時代が訪れると、地元向けの普通酒だけを醸していれば良いというスタンスは通用しなくなる。当時専務だった東海林さんが講じた策は、地元産の酒米『五百万石』と『うつくしま夢酵母』で醸す純米酒造り。蔵人の反対を押し切り、旨い酒を醸すことで納得を勝ち得た。

 平成9年には『夢心』ブランドで出品した全国新酒鑑評会で金賞を受賞。平成10年10月に新ブランド『奈良萬』を誕生させ、東海林さんが企画した地元産の酒米『五百万石』と『うつくしま夢酵母』で醸す純米酒は3年連続で金賞酒に輝く。

 

「3年連続の金賞受賞は前例のないことでしたし、県知事賞もいただいたりと大きな自信になりましたね。酒米の最高峰と言われる山田錦と同じ土俵で戦えるトップレベルの酒を造れたので、『五百万石』じゃダメなんて誰も言わなくなりました。旨い酒が造れたのは、完全プラントの大型仕込みというウチのやり方と相性が良かったんだと思います。同じ『五百万石』と『うつくしま夢酵母』で醸すメーカーさんは他にもたくさんありますけど、ウチのような膨らみのある酒質にはなりませんから」

 夢心酒造の広大な敷地内にある2つの仕込み蔵は、普通酒全盛期の昭和56年から昭和63年にかけて建てたプラント仕様。お米を手洗いしたり杜氏さんが温度管理のために徹夜仕事をする、という昔ながらの仕込み方ではない。機械化された蔵では大量の酒を少人数(夢心酒造の蔵人は現在5人)で製造できるので、とても効率的だ。機械で造ると薄っぺらい酒にしかならないという意見の人もいるが、『奈良萬』を飲めば認識を改めざるを得ないはずだ。

 

「機械化しているのは人間の代わりに出来る部分だけ。最終判断は蔵人の感覚が頼りになります。デメリットを挙げるなら、大きく仕込むので細かい出荷調整ができないということくらい。逆に1度造れば大量に造れるので、金賞酒であったとしても8000本くらいは出荷できるんです。僕は特定の人だけに売る幻の酒とかプレミアム酒というのが、どうも好きになれなくて。『奈良萬』はお客さんが欲しいときに定価で買える酒であって欲しいんです。いつ飲んでも同じ味で安心できるという声をいただけているのも、再現性の高い機械化されたプラントの強みだと思っています」

 普通酒の「夢心」が長く地元の人に愛されてきたのも、変わらぬ味を常に供給してきたから。その蔵のスタンスは、『奈良萬』ブランドでも変わらない。最初は80石からスタートした『奈良萬』も、500石まで製造数を拡大。夢心酒造が醸す酒の約1/3が『奈良萬』ブランドになっている。現在のラインナップは『純米大吟醸』、『純米吟醸』、『純米無濾過瓶火入れ』、『純米酒』を定番に、『純米無濾過生原酒』や『純米ひやおろし』などの季節限定酒も展開。全て酒米と酵母は同じで、精米具合と火入れの回数でバリエーションを増やしている。

 

「例えば純米酒なら2回火入れ、1回火入れ、原酒といったように、同じタンクから絞ったお酒でも火入れの回数によって味わいの違いが楽しめます。僕が目指しているのは、そんなに香りを高くせず、キレが良くずっと飲んでいられるお酒。偏差値70の酒を造れるとは言いませんけど、コンスタントに偏差値60の酒を造る自信はありますね」

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夢心酒造

福島県喜多方市字北町2932

http://www.yumegokoro.com